vol.103 お父さんは山へ茅刈りへ・・・

 今年も茅刈りのシーズン。正直、茅刈りなんぞしているよりも、どこかの屋根を直した方がお金になるし、そもそも金銭的な余裕はない。茅は専門業者さんから買えばいい。

 けれど、地元にせっかく茅があるのだから、この時季は細々とでもそれを刈り取り、来期の仕事に活かしたい。多少の損はあってもそれが、ぶんなの選んだ暮らし方。溺れるまでは、足掻いてみようと思う。

 

 そこら辺にあるもので商売が出来ていいなぁとしばしば言われる。『茅=ススキ』・・・確かにこんな農山村、どこにでもいくらでもある。

 しかし、茅葺きになぜ費用がかかるかと言えば、材料費と施工費。トタンや瓦を敷くようには一瞬で終われないので、施工費がかかる。

 そして、"たかがその辺のススキ"の刈り取りに手間暇がかかる。実際にやってみた者でなければ分かるまい。ただ刈り取りの量を稼ぐだけなら方法もあろう。しかし、施主自ら、職人自ら、茅を刈るとなればそうはいかない。程度の低い茅を刈れば、皆自分に跳ね返ってくる。少しでも寿命の長い、いい茅を刈ろうと思えば、先に述べた、他のアルバイトでもしていた方がよっぽどいいと思えるほどの手間暇がかかるのだ。

 日本で使われる茅はほぼ全て、"国産"、"手刈り"、"天然物"である。安くなる鉄則条件である"輸入"、"機械化"、"養殖"・・・それらを全て無視。高くついて当たり前なのだ。それを少しでも何とかと足掻いて、お施主さんも職人も、せっせと自分で茅を刈る。タダで材料が手に入っていいなぁ…と言われながら。

 何より優先すべきは、食っていくこと。こだわりが金銭的な現実問題に負けてはどうしようもない。だから、この先は分からない。

 けれど、毎年勝手に生えてくる恵みの茅を刈り取り、それを元手に屋根を直し、1年をやり過ごす。そんな自然の流れと一体化した生活が送れれば素敵だなと、甘い夢を抱きながら黙々と茅を刈る。

 四季の自然の移ろいとともに過ごす。それがきっと前職の頃から、いや就業前から自分の育ちに染みついていた、一番居心地のいい生き方なのだから。