vol.80 茅の新芽

 自分で茅刈りをするまで大して気にもとめなかったけれど、来年もまたここで茅を刈りたい……という場所が出来ると、その生育が気になるようになる。自分の田んぼの田植えから稲刈りまでを見守るかのような気分だ。

 仕事帰り、ふと思い立って冬に茅刈りをした場所に立ち寄った。ひと月ほど前に地域の畔焼きが行なわれた後であるため、焦げた茅の株がツンツンと生えている状態。その合間から、茅(ススキ)の新芽が出ている。

 茅刈りをした頃は草だらけで分からなかったが、畔焼きで下草・枯れ葉が全て燃えたため、今は茅の新芽だけがよく目立つ。このまま茅だけが育ってくれればありがたいが、冬までにはつる植物やイバラの類、その他あらゆる植物が入り乱れる。期待通りのものだけが育つわけではないあたりも、田んぼと似ていようか。

 

 よく目を凝らすと、ほとんどの茅の新芽の先っぽがない。シカが食べたのだろう。冬の食糧難に耐えた後、シカにとってもこれは春を感じる御馳走か。そういえば、カヤネズミたちは今どこにいるのだろう? 土の中だろうか。夏以降になればバッタの類にもたかられるだろうし、茅もなかなか忙しい。

 

 再び刈り取りの季節が来るまで、茅の様子を見守りながら過ごせたら、人生のささやかな喜怒哀楽がひとつ増えたようで楽しいだろう。日照り、長雨、台風、大雪。田んぼのように手をかけることもなく、ただ自然の成り行きだけ気にしながら刈り取りの時期を待つことが出来るのだから、親切な農産物(建築資材?)だ。

 厳密には、今はただのススキである。刈り取って、植物性の屋根材 "茅"に姿を変えるまで、今年は生長を見守っていきたいなと思う。