vol.48 駆け引きをしてみる勇気

 終盤に助っ人の応援もあり、珍しく現場が予定より早く完了した。孤独に作業した前回の現場と違い、今回は若い現場代理人さんはじめ、各分野の大工さんたちとの同時作業であったため、話にも花が咲き、勉強になることも多い現場だった。

 

 例のやくものたちの対処は、正直五分五分といったところだった。やくものそのものはスイスイと出来ても、やはり他の部分との接続でミスが出やすい。手直しのため余分な手間を食う場面がしばしばあった。

 性格によるものだろうか?いつも同じようなミスをする。たまには違うやり方を試してみるのもいい。長い目で見れば、自由に試行錯誤してみる時間やチャンスなどいくらでもある。なのに、毎回同じような心配をし、結局同じような対処をし、結局同じような失敗・後悔を味わう。

 29歳でこの仕事を始めた時、親方に言われた。「ハッキリ言えば職人を目指すには遅い。余計な知恵がつき過ぎてる。理屈で考える癖がついてしまってる。無知な学生くらいアホにならなあかん。教わったまんま素直にやれるように。」

 悔しいが、図星を実感する。アホになれない。教わった教科書通りのやり方では、失敗する展開が目に見えている。だからこうしてみたらどうか……。その余計な知恵とプライドが、不思議と失敗を生む。

 アホ(=素直?)になれない経験値と、失敗を避けようとする自身の性格。これがどうも、職人としての成長を邪魔するらしい。

 

 本当に最近のことである。自身が職長をつとめるようになってから対応した数年前の屋根が、その後茅の脱落があったり、今思えば理想形でなかったり、といった事象を目にすることがだんだんと出てきた。そう、失敗を避けていたところで、失敗しているのだ。

 ようやく、いい意味で開き直る心の余裕が、少し芽生えてきたというところだろうか。今回のやくものの対処では、開き直って冒険してみようとする自分が、失敗を恐れ慎重に対処しようとする自分に、僅差で競り負けた、という印象だ。そして、やり直しの手間に追われた。

 どうせ同じ遠回りをするなら、冒険してみた方が楽しい。それが、今年のテーマかも知れない。保守的な自分と向き合うこと。思えば思春期以前から同じことを思っているな…と苦笑い。