vol.36 ハサミでの刈り込み仕上げ

 棟も収まり、屋根の仕上げ段階に入った。屋根面に凹凸があると、数年後に局所的な痛みを生じやすく、見栄えもよくない。なるべく平らかになるよう、茅を叩き均し、刃物で刈り揃える。下から上に葺いていった屋根を、上から刈り降りていく。これが屋根面の仕上げの作業。

 屋根面を叩いて揃えるだけの場合もあるが、今回は文化財につき、"ハサミによる刈り込み"という仕上げの条件付き。

 昔の職人時代は、この刈り込み仕上げの数日は、ある種の骨休めだったと聞いたことがある。ものすごいスピードで葺き上がった後、次の現場に向けて体を休めつつ、ゆっくり刈り降りてくる。

 

 現在は…そうでもない。ハサミによる刈り込みは首や肩が痛くなるし、なかなか大変。昔の職人には嘲笑されるかも知れないが、とても骨休めなどとは思えない。

 枝葉などを剪定するエンジン機械、トリマー(通称バリカン)を使用することも多い。これは機械化されているだけあって、作業としては遥かに楽だ。しかし、ハサミよりずっと短時間で刈り降りるため、結局骨休めなどと思えたことはない。

 

 ハサミによる刈り込みは、紛れもなく伝統技術。それをこの手でやらせてもらえることの貴重さ・ありがたさを、忘れてはいけないと思う。

 がしかし、この首や肩、腕の傷み…。そしてウトウト目をつぶれば、勝手に脳裏に浮かんでしまう茅の並びとハサミの音……。しばらく、逃げられそうにない。