vol.35 針目覆い(はりめおおい)の棟

 地元の美山では、茅葺きのてっぺん(棟:むね)の形は、ほぼ"置き千木(ちぎ)"というスタイルである。重たい木材をクロスさせて棟に載せ、その重量をもって棟を固定する。しかしこれは、材木が豊富な山間部であればこそ形成された形。そうではない平野部などでは、今回のような"針目覆い(はりめおおい)"というタイプの棟がよく見られる。

 

 ピンとこない名称である。教わりたての頃はなかなか覚えられなかった。これは、太い木材ではなく、軽くて入手が容易な竹を主に用いた棟のスタイルである。

 屋根のてっぺんを杉皮で覆う。それが風で飛んでいかないように竹で押さえる。ここから"置き千木"との違いが出てくる。

 重たい木材なら、載せるだけで杉皮を押さえられる。しかし、竹程度では重さは知れている。そのため、確実に杉皮を押さえとめるために、竹を屋根内部(厳密には間接的だが)に縫い止めて締め付ける。

 これで棟を守る杉皮は固定される。しかし、竹を縫い止めたということは、縫った糸をつたって屋根内部に雨水の浸入を許すことになる。

 そこで、竹を縫い止めた箇所の上に、雨水が直接かかることのないよう、茅を束ねて杉皮で包んだ俵を載せて防御する。

 縫った場所(=針目)を、俵で覆い隠す、ので、"針目覆い"である。

 

 これがなかなか面倒臭い。置き千木は重さにおいてしんどいが、施工は比較的単純である。しかし針目覆いは、体力よりも先読みの計算力を強いられる。うまく棟がおさまらなければ、何歩後戻りが必要か……。

 

 置き千木、針目覆い、竹箕巻き、箱棟、コウガイ棟、芝棟……etc。棟のタイプだけでも全国様々である。よその地方へ行き、見慣れない屋根と出会えば、ベテラン職人も途端に1年生。何年たっても、勉強の毎日である。