vol.32 蛇腹(じゃばら)という工芸

 今までにたぶん4回、蛇腹(じゃばら)が用いられた現場に立ち会った。一から十まで自分で蛇腹を製作した現場は、そのうちひとつだけだ。根付き竹といい勝負、自作するとなれば貴重な経験となる品である。

 蛇腹(じゃばら)とは、ヨシ(湿地帯などに生える背の高い植物)を、言ってしまえば行儀良く並べただけ、のものである。だが、パッと見た印象ほど適当なものではない。

 同じ太さのヨシを集め、長さをある程度切り揃え、はかまを取り除く(笹のように、茎周りにはかまがある)。そして、節のすぐ下で切り揃える(これも竹のように、節がある)。

 これで材料の仕込みが完成。次にヨシの横っ腹に2ヶ所以上ドリルなどで小さな穴を開け、竹ひごもしくは銅線などを通し、ヨシを並べた状態で連結させていく。これで蛇腹そのものは完成。

 ドリルで穴を開ける位置も、一定でなければならない。でないと、せっかく切り揃えた節が揃わない。

 特別難しいわけではない。製作は単純作業である。が、これを数十メートル分製作するとなると、すさまじい時間がかかる。直径1cmに満たないヨシを精密に加工し、数十メートル分まで繋げるのであるから…。

 また、角(かど)など、90度の角度をつける必要がある蛇腹などは、また違ったテクニックを要する。さらなる手間がかかる。

 

 今回の現場では、蛇腹の劣化してしまった場所を補修するのみ。大抵の現場の場合、蛇腹部分は高くつくので、傷んでなければそのまま再利用することが多い。

 

 なぜわざわざこんな手間のかかる品を、先人は作り上げたものか…。ハッキリ言って機能美ではない、あくまでも造形美を求めたものである。かつての日本人の工芸への探求心に、頭が下がる。

 

 蛇腹の材料であるヨシは、ホームセンターなどで売られている"よしず"(すだれ)を思い浮かべてもらえば早い。夏の日除けなどで重宝するあれである。

 

 余談だが、"ヨシ"とは通称で、本来は葦・芦(アシ)である。アシは"悪し"を連想させる…それゆえヨシ(良し)と呼ぼう、ということ。これまた、日本人の感性に脱帽である。