vol.15 茅葺き屋根の住人

 次の現場は広島県。家族としばし離れての出張生活は正直つらい。しかしあいにく、茅葺き屋根は仕事する場所を好きに選べるほど多くはない。

 今回の現場も全面葺き替え。冬にさしかかれば降雪の心配もあるため、一番日当たりが悪く屋根の傷みが激しい、北側の面から取り掛かることにした。

 茅葺き屋根の寿命は、日当たりに左右される部分が大きい。日当たりがよく、乾いた南面は長持ちしやすく、日当たりが悪く常にしめりがちな北面は痛みが早い。屋根に影をもたらす山や大木などの影響も大きい。

 茅葺き屋根は植物製であるゆえ、寿命とはすなわち茅が腐っていくことである。茅が腐ればつまりは腐葉土となる。田畑に移し替えればさぞかし…と思えるようないい土になってくる。

 そして大抵の場合、土と化している古い屋根を解体していると、写真ような幼虫がゴロゴロと出てくる。おそらく職人の誰もが、この幼虫でひと儲けする術はないだろか…と考えたことがあるのではなかろか。

 普通この手の処理材は、"産業廃棄物"として処分される。しかし茅葺きは、引き取り手さえいてくれれば、完全に自然に帰る。よい腐葉土として田畑にまいたり、古い茅をマルチ代わりにやはり畑に敷き詰めたり…。山林に放置しても、やがてミミズが湧き、そのミミズ目当てのイノシシ辺りが勝手に耕してくれる。

 子どもたちの夏のアイドルである、カブトムシやクワガタムシ。土地によっては、朽ちてきた茅葺き屋根で幼虫時代を過ごした連中もいるだろう。数千年来の茅葺きの技を継承していく意義は、こんなほのぼのしたところにも…、と思えてしまう。